担保物権の過去問の一回目。まずは、「担保物権一般」、いきます。
- 抵当権者は、設定者の承諾がなくても、同一の債務者に対する他の債権者に抵当権を譲渡することができる。(62-10-4)
○ 抵当権の処分(譲渡、放棄、順位譲渡、順位放棄)は、抵当権の譲渡人と譲受人の意思表示で効力が生じる。いずれも、設定者は何らの不利益も受けず、設定者の承諾は不要である。なお、抵当権の処分の対抗要件は下記の通り。
※抵当権の処分の対抗要件
- 第三者への対抗要件
付記登記(§376Ⅱ) - 債務者、保証人、設定者やその承継人への対抗要件
譲渡人から債務者への通知又は債務者の承諾(§377Ⅰ)
- 抵当権の目的不動産に対して差押えがなされた後は、抵当権の効力はその不動産の天然果実にも及ぶ。(3-10-5)
○ §371「抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。」→天然果実、法定果実ともに原則として抵当権の効力は果実に及ばないが、被担保債権の不履行後に発生した果実については抵当権の効力が及ぶ。
- 被担保債権の目的である印刷機を設定者が第三者に譲渡した場合であっても、当該第三者に対し占有改定により引き渡したときは、譲渡担保権は消滅しない。(4-9-5)
○ 占有改定では即時取得の適用はない。したがって、当該第三者が所有権を得ることはなく、譲渡担保権は消滅しない。
※譲渡担保……動産を債権の担保とする場合、不動産とは異なり抵当権が設定できず、質権しか用いることができない。しかし、質権では抵当権と異なり、担保の占有権を質権設定者から質権者に移す必要があるため、担保の目的物を担保設定者が継続して使用することができない。この場合、譲渡担保を用い、所有権を担保権者に移転しつつ、担保権者が担保設定者に担保の目的物を賃貸(賃料が利息に相当する)することで、動産においても抵当権類似の担保を設定することができる。(出典:Wikipedia「譲渡担保」)→動産の譲渡担保権を第三者に対抗するには引渡しが必要であるが、その引渡しは占有改定でも良い(最判昭30.6.2)。
- 不動産先取特権は、法定担保権であるから、消滅請求の対象とならないが、根抵当権は、元本確定前であっても、消滅請求の対象となる。(15-13-オ改)
× 不動産先取特権は、抵当権の規定(§379、抵当権消滅請求)を§341で準用している。一方、根抵当権は……
§398の22Ⅰ「元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者又は抵当不動産について所有権、地上権、永小作権若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができる。この場合において、その払渡し又は供託は、弁済の効力を有する。」→確定後に消滅請求できるのは条文通りだが、確定前についても、§379の適用を排除する旨の規定はなく、消滅請求の対象となる。
※確定後の根抵当権の消滅請求権者
①物上保証人
②所有権の第三取得者
③用益権者(地上権者、永小作権者)
④登記ある賃借人
※確定後の根抵当権の消滅請求権がない者
①債務者(債務者兼設定者もダメ)、保証人
②①の承継人
③後順位担保権者
- 動産質権者は、被担保債権の元本及び利息の支払を請求することができるが、不動産質権者は、特約がない限り、被担保債権の利息の支払を請求することはできない。(15-14-ウ)
○ 動産質権者→§346「質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。」
不動産質権者→§358「不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。」ただし、特約も可(§359「前3条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法第180条第2号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない。」)。
- 動産質でも、不動産質でも、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度で担保するために質権を設定することはできない。(15-14-オ)
× 不動産質は、抵当権の規定を準用しており(§361)、可能。
- 指図による占有移転の方法によれば、同一の動産について複数の者にそれぞれ質権を設定することができる。(19-12-ア)
○ 質権設定に必要な目的物の引渡しについて、「占有改定」は含まないものの、現実の引渡し、簡易の引渡し、指図による占有移転は含む。
- 同一の動産について複数の者にそれぞれ譲渡担保が設定されている場合には、後順位の譲渡担保権者は、私的実行をすることができない。(19-12-イ)
○ 「最判平18.7.20」の判旨
「1 動産譲渡担保が同一の目的物に重複して設定されている場合,後順位譲渡担保権者は私的実行をすることができない。」 「重複して譲渡担保を設定すること自体は許されるとしても,劣後する譲渡担保に独自の私的実行の権限を認めた場合,配当の手続が整備されている民事執行法上の執行手続が行われる場合と異なり,先行する譲渡担保権者には優先権を行使する機会が与えられず,その譲渡担保は有名無実のものとなりかねない。このような結果を招来する後順位譲渡担保権者による私的実行を認めることはできないというべきである。」
- 所有権を留保した売買契約に基づき売主から動産の引渡しを受けた買主が、当該所有権の留保について善意無過失である第三者に対し当該動産に付き譲渡担保権を設定して占有改定を行った場合には、当該売主は、当該第三者に対し、当該動産の所有権を対抗することができない。(19-12-エ)
× 所有権留保とは、売主が目的物の引渡しを終えつつ、代金が完済されるまで目的物の所有権を留保する制度。占有改定による占有移転では即時取得が成立しないことから当該第三者が譲渡担保権を取得することはなく、売主は当該第三者に対して動産の所有権を対抗することができる。
- 動産売買の先取特権の目的物である動産について、買主が第三者に対し質権を設定して引き渡したときは、当該動産の売主は、当該先取特権を行使することができない。(19-12-オ)
× §333「先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。」→追求力を制限されているが、ここでいう第三取得者とは所有権取得者のことであり、他主占有を得たに過ぎない賃借人、受寄者、質権者は、たとえ引渡しを受けていても第三者に当たらない(大判昭18.3.6)。
0 件のコメント:
コメントを投稿